大好きなお兄ちゃんがいなくなった話
こんにちは、めろんジュースです。
見ての通り、私は小1の頃から新興住宅地に住んでいました。新興住宅地育ちの優しさ、温かさ、思いやり、スマートさ、せつなさ、努力、友情、勝利ものが好きだから昔の料理漫画とか柔道漫画とか好きなんだけど昔の料理漫画とか柔道漫画読んでる人なんて誰もいないんですけど……なんかがどうしても溢れ出てしまうんですね…気をつけてても(笑)
いくつもの新しい家々がイチョウ並木とともに規則的に立ち並んだ、大変美しい町でした。
当時、町は越してきたばかりの若い家族で溢れかえっており、私の家の向かいにも年の近い3兄弟が住んでいました。
名前は
たくみくん、ひろむくん、ちなりちゃん。
みんなお揃いのエクボがあり、目が細く、笑うとくしゃっとなる優しい顔立ちでした。
私はたくみくんのことが大好きでした。
たくみくんはいつもとても優しかったです。
一度もいじめられたり泣かされたり、嫌なことを言われたりしませんでした。
正体は地縛霊ではないか?と思われても仕方がないほど昔のことをよく覚えている私に嫌な記憶がないんです。たくみくんは4年生にしてよっぼど優しい子だったのでしょう。
そんなたくみくんと毎日遊んでいたので、
問答無用で大好きでした。
私はまだ2年生、たくみくんは4年生。
学校ではほとんど会わないし廊下ですれ違ったら恥ずかしそうにしてるけど、家に帰ってくれば「めろんちゃん!」と駆け寄ってきてくれる。
みんなで鬼ごっこやら色鬼やらたかおにやら、ボールやら地面にチョークでお絵かきやら…
思いつくことは全部やりました。なぜか、こもってゲームはせずに基本的に外、お互いの家の前の道路で遊んでいましたね。
暗くなって「ごはんだよー!」と怒られても、粘りました。
よく見えないけどギリギリ手の届かないあたりをコウモリが飛びかう、1日の終わり。
毎日会えるのに、お互いの顔が完全に見えなくなるまでみんなでいつまでも別れを惜しんでた。
いつまでも。
私はピアノを習っていたのですが、ピアノ教室から帰ってくるとみんなつまらなそうに分散していて、「おーい…!」と手を挙げるとパッと顔を上げて全員で「めろんちゃんが帰ってきた!おかえりー!!!」と大歓迎してくれました。英雄の凱旋パレードといってもいいくらい大げさに歓迎してもらえたのです。
悪ぃなセンセー。どうやらオレは鍵盤よりも大事なもんを見つけちまったみてーだ。待ってんだよ、“仲間(コイツら)”がよぉ……‼️
という気持ちになり、私はお母さんの反対を押し切ってピアノをやめました。今でも後悔しています。
さて、夏休みに入ると、毎朝たくみくんとひろむくんとラジオ体操に一緒に行きました。
その帰り、うちのごく小さな庭の裏にたくみくんと2人で探検に来ました。なんとなく、夏の早朝の汚れてない空気や夏休みの1日が始まろうとするワクワク感を、もう少し楽しみたかったのかもしれません。
私たちは庭に背の高い謎の花が咲いているのを見つけました。
茎がやたらと太くて、背筋を伸ばしたようにピンと立つまっすぐな花でした。
「なんだろ、この花?」
「なんだろうね?」
たくみくんは、ぱっとこちらを振り向きました。
「ねえ、これを毎朝2人で観察するっていうのはどう!?」
「わあ、いいね!やろうやろう!」
これから毎朝一緒にこの、おそらく成長しないし種もつけないであろう謎の花を見る…。
そんな特に意味のない約束ができただけでも嬉しかったです。
みんなのお母さん同士も仲良くて、外でバーベキューなんかもしました。
花火もよくしました。
キラキラした花火をふりまわすたくみくん。
「危ないよー!w」と叫ぶと、
「あっ、ごめんね」とすぐやめてくれるたくみくん。
いつまでも、いつまでも、こんな日々が続いていくんだと思っていました。
たくみくん、5年生になっても6年生になっても中学生になっても遊んでくれるかな?
たくみくんならきっと遊んでくれる。
たくみくんなら…。
しかしこの話は本当に突然終わるのです。
ぜひ予想してみてください。
……できました?
では行きます。
秋のある朝のことでした。
起きたら、たくみくんたち一家がいなくなっていました。
「ねえお母さん、たくみくんたちどこにいったの?」
「あ、そうそう、昨日の夜一家で夜逃げしたんだって」
ええーーーーーーーーーーーー!?!?
えぇーーーーーー!!!!!!!!!!!
よ、よに、よにえぇーーーーーーーーーー!?!?!?!?!?!?
今でもまだこんなに驚いています。
当時は知る由もなかったのですが、
どうもご両親に借金があったようなのです。よくわかりませんが。
それで、いつも停まってた大きな青いファミリーカーに、積めるだけの荷物を積んで夜のうちに逃げたらしい。
新築だった家と、立派な二階建てのアパートみたいな物置を借金のカタに入れて、彼らはいなくなりました。
たくみくんはそのまま転校してしまったのです。
挨拶もできずに。
みんなめろんちゃんに最後会えなくて寂しがってた、とだけは聞きました。
私が3年生になったころ、話が落ち着いたらしく、たくみくんたちのお母さんとちなりちゃんが遊びにきてくれました。
でもたくみくんは用事があるとかだったかな、理由は忘れましたが来てくれませんでした。
ガッカリしたのを覚えています。
それは今日会えなかったからではなくて、
ああ、もう二度と会えないんだ、とわかったからです。
今になって思う。これってまさに、
あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない。ってやつだよ…。
「ねぇお母さん、たくみくん元気してるかな…?」
「タクミくんって誰?同級生?」
「違う違う、家の前にいて夜逃げしちゃったたくみくん」
「あ〜〜!なつかしい。お母さんね、あの子は絶対アレになってると思うな」
「え?なんか将来の夢とかあったっけ?」
「チャラ男」
「えぇーーーーっ!!!(この人がそう言うならそうなのかもしれない!)」
おしまい。